シフト制労働者に対する退職扱いとバックペイ 東京高判R4.7.7

シフト制で勤務していた労働者に対して合意退職扱いとした措置について、合意退職は成立しておらず、一方バックペイについては原告主張のうち一部期間のみ認めた例として、東京高判R4.7.7労判1276号21頁をご紹介します。

事案の概要

労働者Xは、本件寿司店における時給制の従業員であった。具体的な勤務日や勤務時間はシフト制がとられ、各従業員があらかじめ勤務希望日のシフトを提出し、決定されていた。

Xは、平成31年1月以降、勤務希望日が激減し、同年3月13日以降のシフトを提出せず、同日以降出勤しなくなった。

Yは、担当者がXと電話等でやり取りした後、Xの社会保険の資格喪失の手続を行う等し、退職扱いとした。

本稿で扱う争点

①合意退職の成否

②Xの不就労がYの責めに帰すべき事由によるものか及びバックペイの額

裁判所の判断の概要

争点①合意退職の成否

裁判所は、概要次のとおり判示し、合意退職の成立を否定した。

  • Xによる退職の意思表示については何ら書面が作成されていないところ、YによるXの退職の意思の確認も明確に行われておらず、Yの主張*1によっても、Xの退職時期が判然としない。
  • Xは最終出勤日の勤務以降も本件寿司店の店舗の鍵を所持し、同店舗に私物を置いたままにしていた。
  • 最終勤務日から約1~2カ月後にかけて、Xは、退職の意思表示をしたことを強く否定し、一時休職するものの復職意思がある旨の発言を行った。
  • →Xの最終勤務日の勤務前後の言動から、XがYに対して確定的な意思表示をしたと認めることは困難であり、黙示の退職の意思表示があったと認めることもできない。

争点②Xの不就労がYの責めに帰すべき事由によるものか及びバックペイの額

裁判所は、概要次のとおり判断し、令和2年3月以降についてのみ、Yの責めに帰すべき事由により就労できなかったと認めた。

  • Xは、Yに対し、本件寿司店に復職させること等を要求する本件要求書を送付した令和元年8月9日頃まで、本件寿司店への復職時期を明確にしていなかったところ、この間Yにおいて、本件寿司店の人員を補充するため新たなアルバイト従業員を雇入れるなどしていた。→Yが本件要求書の送付を受けた後直ちにXを復職させなかったとしても、Yの責めに帰すべき事由によりXが就労できなかったとまでは認められない。
  • もっとも、Xが、本件要求書を送付した上、同年10月1日から令和2年1月17日まで5回にわたる団体交渉においても本件寿司店への復職を求めており、Yにおいても、Xに復職意思があることを明確に認識しながら、同年3月に本件寿司店で新たにアルバイト従業員2名を雇用した、→同月以降については、Xを本件寿司店で就労させることは可能であり、Yの責めに帰すべき事由によりXが就労できなかったといえる。

また、バックペイの額については、概要次のとおり判断し、(平成30年3月から平成31年2月までの時間外、深夜の割増賃金を含めた平均賃金月額ではなく)平成30年12月から平成31年3月までの平均労働時間をベースに算定した

  • Xは、平成30年12月以降、自ら勤務日数を減少させていた上、本件寿司店は令和2年4月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により休業や営業時間短縮を余儀なくされ、深夜営業ができない期間が長期に及んでいる。→令和2年3月以降に支給を受けられたとする賃金については、平成30年3月から平成31年2月までの時間外、深夜の割増賃金を含めた平均賃金月額とするのは相当でなく、Xの平成30年12月から平成31年3月までの平均労働時間に時給額を乗じた額とすべき。

若干のコメント

本判決は、争点①については従来の判断傾向に沿った判断がなされたものと整理可能です。

一方、争点②について、Xの不就労期間のうち、Xが復職時期を一定期間明らかにせず、Yが人員補充した等の事実を捉え、一部の期間についてYの帰責事由の存在を否定しており、注目されます。実務上も、シフト制で働くアルバイト従業員が同様の行動を行い、使用者が対応に苦慮する場面も想定され得ますが、参考となる判断例といえるでしょう。

また、シフト制労働者の不就労期間の賃金額については、近時の裁判例でも問題とされています(例えば、シルバーハート事件・東京地判R2.11.25労判1245号27頁は、違法なシフト削減がされ始めた月の直近3カ月の賃金の平均額としました)。

*1:XがB店長に対し、平成30年11月下旬頃に「もうすぐ店を辞める。12月末だと思う」と申し入れ、また最終勤務日に、B店長に「もう来ない。保険等いろいろあるので、(退職は)4月半ばぐらいになると思います」と答え、B店長が「わかった」と述べた、との主張。