就業規則の「不利益」変更とは?

就業規則を労働者との合意なく「不利益」に変更する場合、労働契約法10条に定める合理性の要件を満たす必要があります(労働契約法10条)。ここにいう「不利益」とはどういう場合かとの点は、実務上重要な問題となります。

1 前提:就業規則の効力

労働契約も契約であり、その内容は当事者双方の合意により決められるのが原則です。
もっとも労働契約については、就業規則が、⑴一定の要件のもと、労働契約の内容を規律する効力(就業規則の労働契約規律効)を有するとともに、⑵事業場の労働条件の最低基準として働く効力(就業規則の最低基準効)も有するとされています。

就業規則の労働契約規律効

就業規則の労働契約規律効は、2つの場面に大別されます。
すなわち、①労働契約の締結場面においては、周知及び合理性を要件として、労働契約の内容が就業規則に定める労働条件によることとされています(労働契約法7条)。
また、②労働契約の変更場面においても、周知及びその変更の合理性を要件として、労働者の同意なくとも、労働契約の内容を変更後の就業規則上の労働条件によることとされています(同10条)。

就業規則の最低基準効

就業規則の最低基準効とは、すなわち、労働契約の内容において、就業規則上の基準に達しない労働条件を定める労働契約部分は無効となり、その部分は代わりに就業規則上の基準によることとされます(同12条)。

2 就業規則の「不利益」変更とは

②労働契約の変更場面については、労働者に客観的に有利な変更であれば、同10条に定める合理性の要件を問われることなく、就業規則の最低基準効により、有利変更された就業規則が労働契約を規律することになります。
そこで、就業規則を変更する際、当該変更が「不利益」変更に当たるか否かが重要な問題となります。

この点について、裁判所は、実質的な不利益変更(例えば賃金減額)が明瞭には認定できない場合、新旧就業規則の外形的比較において不利益とみなしうる変更があればよく実質的不利益変更の有無は同10条の合理性の判断における変更内容の相当性の場面で考慮すればよいとする傾向にあるとされています(荒木尚志ほか『詳説労働契約法』134頁以下(弘文堂、2014))。
一例として、第一小型ハイヤー事件(最判平4.7.13労判630号6頁)では、歩合給の計算方法を従前より変更する内容の就業規則の変更を行った事案で、使用者側は、平均賃金額が変更前後でほぼ同額であり不利益はない旨主張したものの、裁判所は不利益変更に当たることを前提として判断しており、外形的にみて不利益が生じる可能性があれば不利益変更に当たるとの判断を行ったものと理解されます。

このように、不利益変更の合理性判断を要するか否かの間口の問題としての「不利益」の該当性は広く解した上で、実質的な不利益の程度については、合理性判断における変更内容の相当性の中で考慮する、と捉える必要があるでしょう。